和解・赦し・平和

 25,000,000,000円×40=1,000,000,000,000円 
 この天文学的数字を、わたしはひと目で読めませんでした。読みやすく書けば  250億円×40=1兆円という 掛け算です。先日の新聞に防衛省が時期戦闘機として導入を検討している機種が、ア メリカのステルス戦闘機。つまりレーダーに捕捉されにくいF22-Aラプターという飛 行機。一機なんと250億円もするのだそうで、これを40機導入したいという考え を持っている、と伝えられました。合計しめて一兆円。これを生まれたばかりのゼロ 歳児も含めた総人口みんなで負担するとして、単純に割ると、一人8000円強の負担と なります。どの国を敵と想定しているか知りませんが、それほどまでして強力な軍備 を装備しなければならないのか、あまりにも違和感があります。

 ハリネズミのように武装した軍事大国であれば、歴史に生き残ることが確約されて いるのでしょうか。歴史は必ずしもそうでなかったことを示しているように思いま す。シーザーもアレクサンダーもナポレオンもヒトラーも、一時は世界制覇すら手中 に入れたかに見えましたが、彼ら個人の生涯すら全うできず、道半ばで彼らの野望は すべて破れたのでした。聖書の民イスラエルがなぜ神に守られ、なぜ生き残ることが できたのかが聖書に書かれています。それはイスラエルが軍事大国でも、経済大国で もなく、また他国よりも勝った官僚組織があったからでもありませんでした。

 「あなたは、あなたの神、主の聖なる民である。あなたの神、主は地のおもてにい るすべての民の中からあなたを選び、ご自分の宝の民とされた。主が心引かれてあな たたちを選ばれたのは、あなたたちが他のどの民より数が多かったからではない。あ なたたちは他のどの民より貧弱であった。」(申命記7:6,7)

 イスラエルは歴史的にはありとあらゆる大国に蹂躙された経験を持ちます。エジプ ト、アッシリヤ、バビロニヤ、ペルシャ、マケドニヤ、ローマ。まさに時代時代の超 大国、軍事大国による占領、奴隷化、強制連行、支配を受け、2千年近い亡国、そし てナチス政権下によるホロコーストを味わったのでした。しかしこれらの民族の中で 今、生存しているのはエジプトを除けば、アッシリヤでもバビロニヤでもなく、「ど の民よりも貧弱なイスラエル」です。それはイスラエルが神にそうしていただくにふ さわしい能力、価値、道徳を有していたからではありませんでした。一方的な、神の <えこひいき>といえるほどの徹底的な愛によるものでした。神の愛はもっとも小さ なもの、よるべなき者、弱者中の弱者に向うものだからです。

 しかし、それまでして神に選ばれたイスラエルが、結局、差別的な選民主義へと 向ってしまったのです。なんという歴史の皮肉、誤解、思い違いでしょう。あらため て人間の罪深さにふるえます。神の選びは、やがて教会にバトンが受け継がれたこと です。教会こそありとあらゆる差別、特権主義、序列から自由になっていなければな らないことですが・・・・。教会において、人は言葉をもって生きます。人の言葉 は、ときおり現実から遊離します。それをそれとして率直に受け止める誠実さと悔い 改めに生きようとする心構えが必要になります。キリスト者が、まさにここでこそ、 教会が教会であるべき自らへの問い、戦いがあります。事実を指摘され、怒りに感情 を高ぶらせ、冷静さを失うのも人間としての反応ですが、そこには和解や赦し、愛と 分かち合いという、福音の土台が失われていきます。敵意には歯止めが効きません。 1兆円かけようと、核を持とうと、それでも相手の抹殺に息はずませる結果となるで しょう。今こそ主イエスの、和解と平和を、まずここから出発するのです。

(2007年06月17日 週報より)
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