<涼しかった? 今年の夏>

まことに猛暑の夏でした。熱中症で倒れた方々も例年になく多い年でした。我が家 でもっとも暑い部屋は、二階、西向きにあるわたしの部屋です。置き場所もなく、乱 雑に積み上げられた本は、少しの振動で倒れます。鬱陶しく手狭な上、午後になる と、太陽が反転して、直射日光が差し込みます。クーラーはいちおう設置してありま すが、夏の太陽は、クーラーが故障したのではないかと思うほど、激しく攻め立て て、あまり効かないのです。昨年までは、夏の午後はこの部屋で仕事をすることは半 分あきらめていました。

 今年、連れ合いがキウイの葉を茂らせたらどうかと、提案したのです。わたしは何 をやってもあの暑さから逃げるてだてなど、あろうはずもないと思って、「やるんな ら、やってみたら」気のない返事で答えたのです。キウイは雌雄合わせて、植えられ てからすでに17年がたちます。りっぱな棚もあって、いつ実がみのるのか、期待をか けていたのです。けれど17年間、一個の実もみのらせず、完璧に邪魔ものになってい ました。数年前に棚は取り壊され、一メートルほどの幹を残して、上は切り取られて いました。あとは残るところも含めて、根こそぎ、バーベキューの薪にくらいしか使 い道はないだろうと思っていました。長年のこちらの思いに答えることをせず、実も みのらさなかった結果です。

 せっかくの連れ合いの提案だし、部屋が暗くなったら電気をつければ良いさ。春先 にそう思っていました。さっそく3階にむかって紐を張って、枝が這い上がるかどう か様子を見たのです。キウイはそれまでの沈黙を破って、3階に向かって、驚くほど の生命力で葉を茂らせていきました。そして今年の夏。わたしの部屋は、昨年までと ちがって、劇的に涼しかったのです。日によっては、クーラーを使用しましたが、使 わないで済む日もありました。タカをくくっていた、キウイの遮熱効果は驚きでし た。それは冷房効果とさえいえるほどのものでした。キウイは葉っぱ自身が多少厚め で、しかも面積も大きいことも、効果を高めているかもしれません。日中の温度が上 がらないということは、夜間も涼しいのです。ということでわたしにとって、今年は 例年にない快適で、涼しい夏をすごしたのです。

 「さあ、切り倒すぞ」というこちらの思いが通じたのでしょうか。キウイは大活躍 してくれました。やはり、命あるものは何らかの役割を引き受けて生きてくれている のだ。」と実感させられたのです。しかし、それだけで話は終わらなかったのです。 じつは昨日(2006年9月15日)別の用事で、隣接しているアパート側にまわった連れ 合いが、ふとキウイを見渡したときに、目に入ったものは、信じられない光景でし た。キウイの幹には、9個の見事な実が実っていたのです。期待もしなかった夢のよ うな出来事です。じつは雌雄で買ったはずのキウイは両方とも同じ性だったのです。 実がなる可能性は、最初からなかったのです。たぶん、小鳥か蝶が花粉を受粉してく れたのでしょうか。不思議な命の営みが、この実りをもたらしてくれたのです。不可 能が、可能になるということが、時にある、ということでしょうか。自分の常識の世 界が絶対であるかのように思い込んでいるとき、それを破るような出来事が起こりま す。自分の常識など、絶対であるはずがないのです。

 今年の夏は「キウイに教えられた夏」としてわたしの記憶に残ったのです。

(2006年09月17日 週報より)
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