今週は信徒執筆です

「修道院の廃墟を訪ねて」

 西村悟郎   

 8月30日から9月7日までイギリスの庭園を見てまわりました。その中で、ファウンテ ンズ・アビーというイングランド北部のヨークシャー州にある修道院の廃墟を訪ねま した。高さ30m にもなる鐘楼が立ち、屋根の落ちた教会堂は奥行きが50mあります。 直径1mもある石造りの柱が列となって建物を支えています。かつて修道士が黙想を した庭園も残り、生活の場であった宿舎や厨房、学校の跡も残っています。病院の跡 もあります。訪れた日は雨でしたので、その廃墟は沈黙の中に雨にぬれていました。

 ファウンテンズ・アビーは1132年にローマカトリックの修道院として14名の修道士が 移り住んで始まりました。その後、1400年代までには300名を越す修道士が集う、 ヨーロッパでも有数の修道院に発展しました。所有地も広大なものでした。修道士は 朝2時に起床し、祈り、日のあるうちは労働をしました。染色しない羊毛で織った服 を着ていました。寝るのもその服のままです。近在の人々ために餓えの時は食物を与 え、医療も施しました。

 この修道院が閉じたのはヘンリー八世が1539年に出した「修道院解散法」によりま す。その法律によって、200ものローマンカトリックの修道院が解散させられまし た。それ以来、この修道院は廃墟となり再び修道士が集うことはありませんでした。 ヘンリー八世によって没収された土地は、その後次々と転売され、1723年にジョン・ エイズルビーという庭園愛好家に購入され、この一体は自然の風景を取り入れた風景 式庭園に変わりました。今では廃墟は庭園の最も大切なビューポイントになっていま す。

 現在は、ナショナル・トラストが庭園を所有・管理しています。年間の来場者が30万 人にもなり、ナショナル・トラストの中では、最も訪問者が多い施設です。この修道 院の廃墟に立つと、今でも修道士が立ち振る舞う姿が目の当たりに浮かんでくる、そ ういう現実味をこの廃墟は持っています。

(2006年09月10日 週報より)
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